【第9回】及川史歩氏 インド政府認定アーユルヴェーダドクター vol.1
Date 2021.06.30
「あの人のウェルビーイング」では、谷家理香の周りの素敵な生き方をされている方達に、その方が考えるWell-Being Lifeとは?をインタビュー形式で伺った内容をご紹介していきます。今回はインド政府認定アーユルヴェーダドクターで、日本アーユルヴェーダ・スクール副校長でもある及川史歩先生にお話を伺いました。
プロフィール:
日本アーユルヴェーダ・スクール副校長
ハタイクリニック専属アーユルヴェーダ医師
インド政府認定アーユルヴェーダ医師(B.A.M.S.)
NPO法人日本アーユルヴェーダ研究所理事
一般社団法人 日本アーユルヴェーダ学会理事
インド国立グジャラート・アーユルヴェーダ大学(IPGT&RA Jamnagar) 卒業、同パンチャカルマ科修士課程修了(M.D.Panchakarma)
マニパル大学パンチャカルマ科修了 /マハリシ・パタンジャリ・ヨガ学院 ヨガ・自然療法修了証取得
→谷家理香氏 株式会社ウェルビーイングTOKYO代表取締役
→【第1回】高橋百合子氏 E.OCT株式会社代表取締役
→【第2回】エドワード鈴木氏 鈴木エドワード建築設計事務所代表
→【第3回】日沖健氏 日沖コンサルティング事務所代表
→【第4回】杉山文野氏 トランスジェンダー活動家
→【第5回】Rajshree Pathy氏 Rajshree Group of Companiesチェアパーソン兼マネージングディレクター
→【第6回】梶原建二氏 ニールズヤード レメディーズ社長
→【第7回】マニヤン麻里子氏 株式会社TPO代表取締役
→【第8回】村瀬亜里氏 「嘉門工藝」主宰
アーユルヴェーダとの出会い
T:及川先生は、私が2017年から通い出した日本アーユルヴェーダ・スクールで副校長をしていらっしゃり、そちらで出会いました。そこで基礎クラス、応用1、応用2と5年間学ばせていただいた恩師でもあり、私が通っている統合医療クリニックであるハタイクリニックでもアーユルヴェーダドクターとしていろいろとご相談をさせていただいてお世話になっています。
日本でもアーユルヴェーダは最近耳にすることは多くなりましたけれど、インドで大学院まで出られたアーユルヴェーダドクターとなるとまだまだ日本では珍しいですよね。及川先生は約10年間もインドでアーユルヴェーダを学ばれていますが、まず、先生がなぜアーユルヴェーダを始めたのかというお話をお聞かせいただけますか?
O:私はもともとアーユルヴェーダを知る前は、世界遺産マニアだったんです。色々な国の古い遺跡や壁画などを見て回って、どんな人がどういう意図で作ったのか、と思いを巡らせるのが好きでした。ヨルダンのペトラ遺跡は圧巻でしたね。高い岩に挟まれたとても細い道を進むと、自然の岩を掘り込んで作った大きな宮殿が突然現れて素晴らしかったです。私は27歳でアーユルヴェーダの大学に進学したのですが、それまでに毎年いろいろな世界遺産をめぐっていて、30~40ヶ国は行っていたと思います。
初めて行った遺跡はペルーのマチュピチュでした。実際にその景色の中にいると、何百年も前にそれを作った人と同じ景色を見て、同じ気持ちを共有していることを実感できるのですが、それがとても感動するんですね。その感動が好きで、いろいろな遺産を見て回っていました。
T:世界中を旅されていたのですね。
O:そうなんです。でもインドだけは行ったことがなかったんですよ。ちょっと怖いイメージがあって。
T:それは意外ですね。ではインドやアーユルヴェーダとのご縁はどこから始まったのですか?
O:アーユルヴェーダの大学に行く前に、両親が経営している美容室に7年勤めていたんですね。そこで働きながら世界遺産旅行をしていたんですが、アーユルヴェーダという言葉をなんとなく耳にして興味を持ったんです。アーユルヴェーダって、遺跡旅行と似ているところがあって。数千年前にサンスクリット語で書かれた古典を読んで、書いてあることをその通りにやると、当時と同じような効果が得られる。太古の人と同じ感覚を共有して、古典の著者である昔の聖者たちが見たのと同じ変化を目の前で見ることができるんですよ。それが楽しくてたまらなくて、いろいろ自分で勉強していました。
あるとき、美容室の母の昔からのお客様が、インドでアーユルヴェーダの施術を受けたクリニックで働いていた日本人の方と今度ランチするから一緒にどうぞと誘ってくださったんです。そのランチの時に日本アーユルヴェーダ・スクールを紹介してもらったんです。ただ、学費が25万円くらいして当時の私には手が届かなくて迷っていたんですが、援助をしてくださる方がいて、スクールに通うことになりました。
通い始めた当初は、古代文明と同じように趣味の対象といった感覚で行っていたんですが、やっていくうちにどんどん楽しくなってきたんです。例えばギーを作るときは、だんだんと泡が細かくなりいい香りがするようになると古典に書いてあるんですが、同じことが自分の目の前の鍋の中でも実際に見れるんです。古典の通りに処方するとアグニ(消化力)が高まる効果があることを、人の体を通じて確認することができる。古典を書いた時代の人と同じ興奮を共有することができるわけです。当時のスクールは今の講座と比べて期間が短くて、週2日で3ヶ月くらいですぐに終わってしまって、卒業後にもっと勉強したいと思いインドに行くことにしました。最初はとりあえず3ヶ月くらい行って、嫌ならやめようと思っていたんですが、気付いたら6年もいましたね。
インドで猛勉強
T:アーユルヴェーダは日本語で学んでも単語が難しくて、私は理解するのにとても苦労したのですが、それをインド英語で学ぶというのは相当大変だったのではないですか?
O:逆に私の場合は、英語もサンスクリットも全くわからなくて、自分がどれだけ出来ていないかもわからなかったんですよね。なので3ヶ月間ひたすら先生が黒板に書く文字を真似して書き写していました。停電した部屋の中で、蚊がぶんぶん飛び回っていて、ジーンズ越しにも蚊が刺してくるような教室で、サリーを着た先生が黒板ににょろにょろっと文字を書くんですよ。チャラカ・サンヒター(アーユルヴェーダの医学書)などを書いているんですが、当時は読めなくても、とにかく写していく。携帯で写メなんてない時代ですからね。スピードラーニングのような感じでクラスに出席していました。インド人クラスと外国人クラスがあったんですが、インド人クラスは肌がくっつくくらいにぎゅうぎゅうで詰め合わせて席に座って勉強していました。そして3~4ヶ月経って直ぐに試験期間に突入です。まあ、当然のように試験には落ちて、翌年6教科の基礎にプラスで哲学とサンスクリットの2教科も同時に勉強しなければいけなくなったんですが、この哲学とサンスクリットが面白くて、集中して勉強できました。
T:試験は英語ですか?
O:そう、英語です。2回目の試験の時は、向こうも一生懸命受からせようとしてくれた感じがします。大きな試験センターで、問題用紙とノートが配られて、試験スタートするんですね。1問10点で自由記述。1教科の試験時間が3時間で、○○について好きに記述すること、というような問題で、書けば書くほど点が高くなるようなので、手がしびれるほど記述しました。試験時間が長いので、テスト中にチャイの人が出前に来たりしていましたね。
T:チャイが!それはインドぽいですね。それにしても1年半に1回だけの試験なんですか?年度末にまとめてのテストだと対象も期間も長くてなかなか覚えていられずに大変そうですね。
O:1年前に習ったことなんか忘れちゃいますよね。インド人の学生の皆さんはほとんど独学で勉強していて、先生に教えてもらう授業の内容は予備校のような感覚だったのだと思います。とりあえず、アーユルヴェーダの古典を全て暗記していくスタイルですね。文章が韻を踏んでいたり、歌のようになっているので記憶に定着するんですよね。なので何年も前に覚えた教典でもいつまでもすらすらと口から出てくるんですね。
T:カリキュラムはどのような内容だったのですか?
O:1年生はサンスクリットや哲学、そして解剖学など現代医学的なものも含まれています。2年生になると、製薬学、植物学、毒学など、ハリーポッター的な内容になってきます。1年半で1学年なので、2年生が終わると3年が経過しています。3年生は内科や外科などの専門的な分野を学び、最後の1年で病院勤務のインターンシップです。私はそのインターンシップが終わった後に、カルナータカ州のマニパル大学で半年間研修医をやっていました。
マニパル大学はインド有数の現代医学の医大なんですが、アーユルヴェーダに特化しているわけではなく、西洋医学も含めて総合的に扱っているんですね。その附属病院では、外科、内科、精神科、パンチャカルマ科などがあるんですが、どの科でも同じカルテを見て、その人の病歴などを参照して治療方法を模索していく。例えば外科手術の後にアーユルヴェーダの処方をするなどが自然に行われていて、医療として理想的な環境だと思ったんです。
T:西洋医学とアーユルヴェーダを合わせてベストの治療が受けられるのはいいですよね。はじめは3ヶ月だけ行くと思っていらしたのが、がっつり学ばれた訳ですね。
O:そうですね。2年目の製薬で薬を作りはじめたあたりから楽しくなってきましたね。はじめはやっぱり観光気分で、医者になろうという気持ちもなかったのですが、やればやるほどのめり込みました。その後日本に帰ってきて、またインドに戻って大学院で研究をしていたのですが、大学病院に勤務していた時は色々な患者さんが相談に来てくれるんです。現代医学ではもう何もできないと言われて相談に来たというような、ひどい皮膚病の方やガンの方などいらっしゃるんですね。そういった方にアーユルヴェーダで出来ることがあればと思ってアーユルヴェーダ医を続けている感じです。