【第8回】村瀬亜里氏 「嘉門工藝」主宰 vol.2
Date 2021.04.05
谷家理香の周りの素敵な生き方をされている方達に、その方が考えるWell-Being Lifeとは?をインタビュー形式で伺った内容をご紹介する、「あの人のウェルビーイング」。第8弾は、「嘉門工藝」を主宰されている村瀬亜里さんにお話を伺いました。
プロフィール: 「嘉門工藝」主宰。10歳より建築家、堀口捨己夫妻にお茶を学ぶ。漆芸家、村瀬治兵衛をサポートする傍ら、国内外の作家との企画作品が共感を呼ぶ。優れた審美眼と今を感じる物作りは、お茶の世界に爽やかな風を送っている。
→谷家理香氏 株式会社ウェルビーイングTOKYO代表取締役
→【第1回】高橋百合子氏 E.OCT株式会社代表取締役
→【第2回】エドワード鈴木氏 鈴木エドワード建築設計事務所代表
→【第3回】日沖健氏 日沖コンサルティング事務所代表
→【第4回】杉山文野氏 トランスジェンダー活動家
→【第5回】Rajshree Pathy氏 Rajshree Group of Companiesチェアパーソン兼マネージングディレクター
→【第6回】梶原建二氏 ニールズヤード レメディーズ社長
→【第7回】マニヤン麻里子氏 株式会社TPO代表取締役
幸せのために必要なもの
「健康・食・人間関係・仕事・お金・愛」の優先順位を教えてください。
1番は仕事ですね。次は健康。それに続いて人間関係、お金、愛、食。個人としてはこうとか、社長としてはこうだとか、立場やその時によっても変わりますけれど、ざっくり言うとこの順番です。
仕事が1番なのですね。
ええ、仕事は誰かのために役立つとか、困っている人を助けるとかそういうイメージがあって。私は「ビジネス」と「仕事」は違うと考えているんです。「仕事」というのは、その先には誰か人がいて、その誰かの幸せのためにお役に立つことだとおもっています。そしてその延長線上でその「仕事」がビジネスになればいいなと思っています。
なるほど。まず、だれかの役立つこと=「仕事」という定義がそこにあって、それが今、自分の中では1番大切な優先順位になっているということですね。
そうですね。うちの場合は仕事=家業なので、第一目標になりますよね。仕事=漆、漆芸が普遍的なものであって、絶対的なものなんです。江戸時代から受け継がれてきた技や知識が今につながっています。漆のそういった本質的なものがこの家業にはあると思っているので、そこは幸せなところですね。
なるほど、それを幸せと感じているということでね。それが仕事=ビジネスではなく、みなさんの役に立つと幸せになるということが、自分の中でやりがいになっているんですね。なおかつ、それが家業で、その家業が普遍的なものであるから、それがみなさまの幸せに繋がっていけば、さらに幸せということですね。
ええ、家業が今まで何百年も続いているということは、そこに本質があるんだろうなと思っていて。どんな時代でも、なくなっているものは多くある訳ですよね。だから、それが何百年も繋がれているということにはやっぱり意味があるんだろうなと思いますね。
なるほど。そして次に繋げていきたいという思いもおありなんですよね。仕事の次は健康ですね?
そうですね。やはり健康が土台で、なくてはならないものだと思います。
次が人間関係ですね。先程ちょっとおっしゃっていたけど、仕事の先に必ず人がいるということですね。
そうですね。お茶の場というのが一流の人たちに囲まれる環境なんですよね。小学生の時のお茶も、お稽古場というよりは少人数制のサロンだったと今考えると思いますね。そこに小学生の私が行かせていただき、みんなが来る前にランドセル背負って伺っていました。先生のお宅に着くとまず先生と奥様とおやつをいただくんです。先生と奥様の会話を聞きながら、準備を少し手伝う時間はものすごく貴重でしたね。そこでの経験や、どうしたらこの人たちのようにエレガントになれるのか観察していたこととか、今にもつながっていると思います。
嫁に来てからも、裏方であろうとも一流の人の間に入る場を1年に100回以上与えられて。本当に鍛えられましたね。ふすま越しに会話を聞いたり、そういった体験全てが身となり血となっていると思いますね。
すごい量のインプットが流れこんでいるということですよね。
すごく入りますね。講演会に行くのもいいんだけれど、講演会は外向きのものですし少し便宜も入っていますよね。実践の場で一日中お茶をすると、一流の人たちとの丁々発止のやり取りなどをその場で見ることができ、とても刺激がありますね。同じお道具でお茶を点てても全く違うものになるし、同じ人がやっても素敵な場になるときもあるし、なんだかつまらないお茶会になってしまうこともあるし、毎回異なるのが面白いんです。
お茶室の中で、垣根を越えていろいろな人たちに出会えるのが良いですね。自分の周りの人間関係ですとか、地位や年齢、職業など全て超えて、お茶という一点で繋がっているというのはすごいことですよね。
なるほど。社会人になると特にそういった誰しもがフラットな関係で何かする機会はなかなかないですよね。それがまた各界の一流といわれている方々ともなると。お茶が結びつけるその関係はすごく素敵ですね。そしてその次に大事なものがお金?
人間関係の次はお金ですね。経営者の立場としてはやっぱり、ビジネスとしてお金を生み出さなければならないですね。お金はなんと言うか、川というか、血流というか、健全に循環させていかなければならないと思っています。先ほど話した家業だったり人間関係だったりも、全てを行うためにはお金が回っているということがすごく大切ですね。
貯まってはいかないんですね(笑)?
本当は貯めたいんですけれどね(笑)。骨董って褒める人のところに集まるって言われているんですよ。なので、お金を褒めまくろうかと思っているんですけども。自分がこれが好き、これが好き、あれが好き、すごくいいねって言っていると、それがその人のところに集まってくるってよく言われています。だから、お金が好きって言い続ければ集まってくるかなと。でも、芸術家はつつましやかに良いものを作るべき、といった風潮があるので、どうしたらいいのかなって考えますよね。
日本はちょっと清貧思想強いところがありますよね。精神的なところを求めるあまりアーティストや作家の方にもお金とかまったく興味ありません、自分の情熱のおもむくままに製作しています、みたいなのが好きみたいな。でもそれでは製作をし続けることはできないですものね。やはりビジネスを考えるというのは誰にとっても今は重要ですよね。
お金の次に大切なものに愛を選ばれていますね。愛とはどのようにとらえられていますか?
1番愛があったと思う人は林屋晴三先生(※)なんです。それはもう、思い出すだけで涙が出るくらい愛の深い方でした。(※陶磁器研究家。東京国立博物館名誉館員。茶陶の研究の専門。)
「愛の人」だったのですね。
そう、見返りを求めずに愛情を持って接していらっしゃいました。例えば地位が高い人に対しても、学生さんなど若い人に対しても、接し方が全く同じだったんですね。お茶席に入った人の中でものすごく位の高いお坊さんなど御高名な方がいらっしゃっても、怒るときは怒っていたし、褒めるときは褒めていました。
お茶に対する愛があったのですね。
たぶんお茶だけでなく、人間に対する愛も強かったのだと思います。人への接し方だけでなく、ものに対しても同様で。お茶の道具に関しても、薄茶では新しい作家さんのアートを取り入れたり、逆に濃茶では歴史的表現をなさったり。新しかろうが古かろうが、良いものは良い、本質的なものに対するリスペクトをお持ちで、今を問うという心意気をものすごく感じる方でした。
ほんとにそうですね芸術に対するリスペクトというか愛があって、若い方にも知ってもらいたいし、作り手の方もサポートしていくということも行ってらっしゃいましたね。うちの娘も小学校2年生くらいの時に林屋先生のお茶会の呼んでいただき、お膝に娘を乗せて「お金はいらないから毎回いらっしゃい。そして大人になってもお茶をずっと続けなさい、お茶を続けたら素晴らしい人になれるから」と仰ってくれたことを思い出します。
林屋先生を動かしていたものは、きっとお金とかじゃないんですよね。
そうですね。そして亜里さんが順番の最後にしたのが、食?
そうね、食ね。
食はそこまではこだわってないですか?そんなことないですよね。
正直なことを言うと、こだわる時間がないんですよね(笑)。興味がないわけじゃないんですけれど、時間的には仕事に割く時間のほうが多い。抹茶は素晴らしいスーパーフードですし、食器も扱っているので、衣食住を含めて食も扱っている形ではありますね。もうやっぱり全部が職業に結びついて、この順番になりましたね。
なるほど、今の立場で言うと、の順番ということですね。
来年は違うかもしれないんだけど、現時点としてはそういうことですね。