鬼滅の刃で呼吸ブーム到来!?
ファンタジーの中に秘められたメッセージ
昨年大ブームだった鬼滅の刃。私も一昨年ぐらいに電子コミックを読みだしたらはまってしまった大人買い組です。これほど大ヒットした理由は物語の中に現代の私たちが共感する普遍的なテーマや隠喩が描かれているからだと思います。主人公の炭治郎の妹の禰豆子の健気さや、鬼も柱もみんながどこか哀しくて優しくて、強さと弱さが表裏一体となって進むプロットがまさに日本人好み。
そして絶対的な悪の結晶、無敵の無惨様に対抗するのは鬼殺隊の剣士たちですが、ここで人間が鬼に対抗するための1つの大きな要素として「呼吸」があげられているのが私としてはとても興味深かったです。呼吸を極めれば通常では考えられないような力を人間が発揮することができる、ということが繰り返し示唆されています。
ファンタジーなのでこの鬼滅の刃の中の呼吸を実際のこととして考察されているものを見かけなかったですが、鬼滅の刃はかなり呼吸の本質をついているのではないかと思うので、すこし考察してみます。
「ヒノカミ神楽」と日の呼吸
鬼滅の刃の中で呼吸はとても重要な要素として扱われています。始まりの剣士継国縁壱から伝わり、代々炭治郎の家に伝わるヒノカミ神楽。全ての呼吸の始まりとされる「日の呼吸」を使うことにより、体の弱い炭治郎の父が休むことなく一晩中ヒノカミ神楽を踊り続け、無病息災を祈り神に奉納していた舞い。幼い炭治郎が父のどうして肺が凍るような雪のさなか、体の弱いお父さんが一晩中舞を踊れるのかと問う場面があります。「正しい呼吸ができれば炭治郎もずっと舞える」とお父さんが答えています。
それぞれの人の特性に合わせて「日の呼吸」から「水の呼吸」「雷の呼吸」「炎の呼吸」「風の呼吸」「岩の呼吸」と派生して、火柱である煉獄さんは火の呼吸を使い、水柱である富岡さんは水の呼吸を使います。もともと炭治郎は水の呼吸の訓練を受けていますが、累との闘いのさなか、お父さんの言葉を思い出し、水の呼吸から日の呼吸に切り替えることにより、累の最高硬度の糸を断ち切りピンチをしのぐというシーンがあります。連舞である日の呼吸の秘密が最終的に明かされるのは、最終巻近くですがここに日の呼吸の奥義の一端が明かされる大事な場面でした。
ヨガは動きながら行う瞑想ともいわれますが、例えばアシュタンガヨガというヨガは、ポーズの流れが全て決まっています。呼吸と動きを連動させることで感覚を制御し、集中力を高め、深い瞑想を行い、悟りの境地に達するのが最終目標とされています。これはいわゆるゾーンにはいり普段以上の能力が発揮できる状態です。始まりの剣士継国縁壱の技は、おそらく一切の無駄が排除された美しい舞のような12の技がつながって13番目の型、1つの円舞が完成されたものですが、動作に合わせた正しい呼吸がいつまでも疲れずに動いていられるというのもそれに近い事なのではないかとおもいました。
心肺能力を極限までに高める「全集中の呼吸」
今、日本一有名な呼吸といえば、国会議員も引用するほど知れ渡った「全集中の呼吸」でしょう。著しく増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、血管や筋肉を強化・熱化させて瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる呼吸です。はじめ炭治郎は自分より小柄な女の子カナヲまったくかないません。カナヲは全集中の呼吸を身につけています。炭治郎はこの全集中の呼吸を寝ている間もずっと24時間できるようになるのがまず鬼殺隊員の基本だと教わり、初めは小さなひょうたんから最後は背の高さほどあるひょうたんを呼吸だけで割るという訓練をすることで「全集中の呼吸」を身につけカナヲと互角に戦えるようになりました。
「全集中の呼吸」で止血
映画「鬼滅の刃 無限列車編」で炭治郎が魘夢と戦い深手を負い動けなくなるシーンがあります。その時火柱煉獄さんが炭治郎に全集中の呼吸で止血する方法を教える場面がでてきました。炭治郎が集中しながら出血箇所を探りあてると「そこだ!」と指示し、止血に成功します。実際に呼吸で止血ができるか、というのはわかりませんが、ヨガなどでいうサンスクリット語のプラーナ(生体エネルギー)は呼吸を通して全身に運ばれるとされています。お腹が痛い時に手を当てる=手当もプラーナが手からでているという解釈があります。科学的には深く呼吸をすることで酸素が肺の細胞にいきわたりミトコンドリアがエネルギーを沢山つくりだせるようになるという事がわかっています。また呼吸法の練習の1つに呼吸とともにエネルギーを背骨の右側、左側と上下にさせるというものもあり、自分の身体の感覚を研ぎ澄ませるというものが実際あります。呼吸を極めればで神経が研ぎ澄まされ出血箇所が感知し止血できる、というのもまったくの絵空事ではないかもしれません。
煉獄さんがとてもいい事を言っています。「呼吸を極めれば様々な事ができるようになる。なんでもできるわけではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる」。いい言葉ですね。
というわけで鬼滅の刃の現代に通じる普遍的なテーマの1つに「呼吸」もあると思うのですが、ここで「全集中の呼吸」の修行はできなくても、もっと簡単に誰でもできる呼吸法を次回からすこしづつご紹介しようとおもいます。お楽しみに。